Report1.僧帽弁閉鎖不全症

今回は「僧帽弁閉鎖不全症」についてご紹介いたします。

僧帽弁閉鎖不全症は犬に最も多い心臓病で、当院においても最も症例数の多い心臓疾患です。
僧帽弁が壊れてしまうと血液が左心室から左心房に「逆流」してしまいます。左心房がだんだん大きくなって、肺水腫を引き起こし入院、または最悪亡くなってしまう病気です。主な症状としては運動不耐性、咳、呼吸困難などがあります。ステージB1は無治療で定期健診します。ステージB2以上では治療が必要となっています。

内科治療では症状を抑えたり進行を遅らせる事しかできませんが、
外科手術では心臓病所見の消失や、投薬の中止または減量が可能となります。

当院では、僧帽弁閉鎖不全症に対して、体外循環下で異常を来した僧帽弁を正常な形態に形成する「僧帽弁形成術」を行っています。

こちらの記事では実際の僧帽弁形成術の症例をお伝えします。

1.基本情報(患者情報および状態の所感)

  • 犬種:チワワ
  • 年齢:10歳
  • 性別:去勢雄
  • 体重:3.4kg
  • 治療:べナゼプリル、ピモベンダン、トラセミド

2.実例(検査~手術~術後までのプロセス)

検査所見

  1. 聴診
    左体側にて収縮期雑音を聴取。Levine5/6。
  2. 胸部レントゲン検査
    VHS:11.1 v
  3. 心臓超音波検査
    LA/AO:3.0
    LVIDD:35.4㎜
    MR流速:6.0m/sec
    TR流速:2.7m/sec
    E波:1.58m/sec A波:0.59m/sec

僧帽弁閉鎖不全症ACVIMstageCと診断。
手術適応と判断し、僧帽弁形成術を実施。

手術所見

  • 定法通り肋間開胸
  • 送血・脱血カニューレを挿入し、人工心肺と接続
  • 体外循環開始
  • 僧帽弁の腱索を再建
  • 僧帽弁の弁輪を縫縮
  • 左心房縫合後、体外循環から離脱
  • 定法通り閉胸

術後所見

僧帽弁逆流は微量に残存するのみとなった。
心拡大所見は認められなくなった。

Movie

術前の経食道エコーの様子
術後の経食道エコーの様子

<術後1ヶ月エコー所見>
LA/AO:1.1
LVIDD:17.6㎜
MR流速:微量
TR流速:微量
E波:0.9 m/sec A波:0.98m/sec

Photo

3.最後に

動物心臓外科センターでは僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療が最も多いです。
逆流がなくなることで、投薬を減らしたり、飲む必要がなくなったりします。
安心して手術を受けていただけるようにしておりますので、手術を希望される方はお気軽にお問合せください。